研究内容

1.  膵臓癌のがん細胞における糖とエネルギー産生を中心とした代謝異常の検討:膵臓癌のがん細胞における代謝系の異常とその意義について検討している。また、解糖系の制御からがん細胞の増殖を抑制する新規の治療法の開発を目指している。

2. 甲状腺癌におけるBRAF遺伝子変異の解析:甲状腺乳頭癌におけるRAS関連遺伝子の下流の重要な制御を司るBRAF遺伝子の変異と臨床病理学的特徴の関連を解析している。

3. ProteomeとLipidome を組み合わせたアミロイド沈着機序の解明:アミロイドーシスは、アミロイド前駆蛋白質が不溶性のアミロイド線維を形成し、様々な臓器の細胞外間質に沈着し、臓器障害をきたす。現在30種類以上同定されているアミロイド前駆蛋白質は、いずれも、アポリポ蛋白質が共沈着している共通した特徴を持っている。現在、ヒト検体を使った質量分析法によりProteomeとLipidomeの双方からアミロイド沈着機序の解明を目指している。具体的には、心臓、腎臓、皮膚のアミロイドーシスを中心に、レーザーマイクロダイセクション+液体クロマトグラフィー質量分析法やマトリックス支援レーザー脱離イオン化法を用いて沈着機序の解明を目指している。

4. アミロイドーシス類縁疾患であるFibrillary腎症、イムノタクトイド腎症の共同研究に参加している。

5. アミロイド病型診断:免疫組織化学と質量分析法を用いてアミロイド病型診断を行っている。アミロイドーシスに関する調査研究班の病理コンサルテーション事業に協力し、全国からのコンサルテーションを受け入れている。さらに、国内で3施設しか参加していない、診断難解症例のプロテオミクス解析によるアミロイド沈着物の解析を受け入れる施設の1つとして参画しており、日本のアミロイド診断を支える重要な施設となっている。

6. 心筋のプロテオミクス: 拡張型心筋症の予後予測、正常心筋での加齢性変化などについて解析している。

7. 子宮内膜癌のバイオマーカー同定および治療法的候補の検索:子宮内膜癌のタンパク質発現を網羅的に解析し、予後の悪い低分化類内膜癌 (G3)で高発現している分子を同定した。この分子の癌の進展や予後への関連について検討し、治療標的としての可能性について解析している。

8. 甲状腺乳頭癌に及ぼす腫瘍随伴マクロファージの影響について:腫瘍随伴マクロファージは腫瘍促進因子と考えられている。甲状腺乳頭癌とマクロファージの関係について、Gene Set Enrichment Analysis (GSEA)によりM2マクロファージのマーカーの発現に相関する遺伝子セットの解析や、病理組織標本を用いてM2マクロファージの割合をカウントし、臨床病理学的因子との関連を解析している。

9. ヒト皮膚有棘細胞癌由来乳酸が腫瘍随伴マクロファージに与える影響の解析:皮膚有棘細胞癌から分泌される乳酸が単球由来細胞株 (THP-1)へ与える影響について解析している。

10. 肝内胆管がん対するESRP-1の影響の解析:Epithelial splicing regulatory protein 1 (ESRP-1)は選択的スプライシングを調節するmRNA結合タンパクである。ESRP-1の発現と臨床病理学的解析や細胞株を用いた細胞遊走・浸潤への影響などについて細胞生物学的解析を進めている。

11. 甲状腺未分化癌(ATC)の新規抗がん剤の開発を目指した研究:手術不能例が多いATCにおいて薬物治療の重要性は高い。ATCで解糖系の利用など代謝活性化が認められることから代謝阻害剤を複数用いて、ATC細胞株に与える影響についてプロテオミクス解析を用いて解析している。

12. ウイルス感染性に関わるタンパク質の網羅的解析:ある種の哺乳類ではヒトと異なるウイルス感染性を呈することが知られており、感染によりヒトでは細胞障害が生じるが、その哺乳類では細胞障害を起こす頻度が大きく低い場合がある。この現象に関わるタンパク質をプロテオミクス解析により探索している。本学の微生物学・免疫学教室との共同研究。

13. 非小細胞肺癌の分子標的薬耐性に関わるタンパク質の解析:分子標的薬は劇的に癌患者に奏功するケースにおいても薬剤耐性が生じてしまう。耐性が生じている機序を調べるため、培養細胞株で樹立された分子標的薬耐性株の細胞内タンパク質の網羅的解析を行い複数の特徴的な代謝経路の活性化が見られ、解析を進めている。本学の遺伝子制御学研究室との共同研究。